出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2014/01/17 18:22:11」(JST)
この項目では、土木構造物について記述しています。人が建設したダムにより河川が堰き止められ出来上がったダム湖については「人造湖」を、その他の用法については「ダム (曖昧さ回避)」をご覧ください。 |
プロジェクト ダム |
ダム(英: Dam)、堰堤(えんてい)は、治水、利水、治山、砂防、廃棄物処分などを目的として、川や谷を横断もしくは窪地を包囲するなどして作られる土木構造物。一般にコンクリートや土砂、岩石などによって築く人工物を指すが、ダムを造る動物としてビーバーがおり、また土砂崩れや地すべりによって川がせき止められることで形成される天然ダムと呼ばれるものもある。また、ダムは地上にあるものばかりでなく、地下水脈をせき止める地下ダムというものもある。このほか、貯留、貯蓄を暗示する概念的に用いられることがあり、森林の保水力を指す緑のダムという言葉がある。
堰(せき、い、いせき)ともいうが、この場合は取水や水位の調節などが目的で、砂防目的のものは含まない。
日本のダムについての詳細は日本のダムを参照のこと。
英語の dam という言葉は中英語に既にみられるが、おそらくは中世オランダ語の dam から派生したと考えられている。オランダでは、河川の水位調整と湿地への海水浸入防止のために用いられることが多かったが、ダムができるとその地点での渡河が容易となるため、しばしば都市の形成へとつながった。たとえば、アムステルダムはアムステル川に、ロッテルダムはロッテ川にダムが設けられたことを契機として形成された街である。
ダムの定義は各国により異なるが、1928年(昭和3年)に創設され現在88ヶ国が加盟する国際大ダム会議における定義では堤高が5.0メートル以上かつ貯水容量が300万立方メートル以上の堰堤を「ダム」として定めている。そのうち、高さが15メートル以上のものをハイダム、それに満たないものをローダムという。日本の河川法でいうダムとはハイダムを指し、これ以外の堰堤についてはたとえ「ダム」という名称が付いたとしても堰として扱われる。ちなみに、明確な定義が無かった時期は、山に接して設けられるもの・積極的に流水を制御できる堰堤をダム、堤防に接して設けられるもの・常に越水するなど受動的にしか流水を制御できない堰堤を堰として分類していた。しかし、堰の中にもダムと同様に洪水調節・流水機能維持を目的に積極的な流水の制御を行う施設も建設されるようになり、ダムと堰の区別が曖昧になってきた。これにより、明確な定義を定める必要性が生まれたと考えられている。なお、ダムを上流から見たとき、右側を右岸(うがん)、左側を左岸(さがん)といい、ダムの下流側の面を背面(はいめん)という。
ダムの目的は多岐にわたるが、主なものとしては治水(洪水調節・不特定利水)と利水(灌漑用水・上水道用水・工業用水・消流雪用水の供給・水力発電・レクリエーション等)がある。治水を目的とするダムを治水ダムといい、利水を目的とするダムを利水ダムという。複数の利水目的を持つ利水ダムや、治水・利水両方を目的とするダムを多目的ダムという。治山を目的とする治山ダムや砂防を目的とする砂防ダム、鉱山で鉱滓貯留を目的とする鉱滓ダム、廃棄物埋設処分を目的とするダム等は河川法のダムとは別扱いとなる。
本項では国際大ダム会議で定義されたダムのうち、日本の河川法・河川管理施設等構造令の基準にも援用されている高さ15.0メートル以上の、いわゆるハイダムについて説明する。堰・治山ダム・砂防ダム・鉱滓ダム・天然ダム・地下ダムについては、それぞれの項目を参照されたい。
日本語においてダムの数え方は「基」であり、1基、2基という形で数える。
なお、2011年時点、世界で最も多くのダムを保有しているのは中華人民共和国である。その数は8万7千基に及ぶ[1]。
日本のダムに関する詳細な歴史は日本のダムの歴史を、年表の一覧は日本ダム史年表を参照のこと。
人類史上、初めてダムが建設されたのは古代エジプト・エジプト第2王朝時代の紀元前2750年に建設されたサド・エル・カファラダム(意は「異教徒のダム」)がダム史上最古といわれている。このダムは堤高11.0メートル、堤頂長が106メートルで、石切り場の作業員や家畜に水を供給する、上水道目的で建設された。その後の発掘調査などから石積みダムであったと考えられているが、洪水吐きを持たなかったため建設後40年目にして中央から河水が越流し、決壊したと推定されている。このため現在このダムは存在しない。またエジプト第12王朝時代のアメンエムハト4世(アンメネメス3世)の治世には干拓により形成された農地にかんがい用水を供給するためのダムが建設されたとされている。現存するダムの中で最も古いものとしてはシリアのホムス付近に建設されたナー・エル・アシダムと考えられている。このダムは堤高2.0メートル、堤頂長2,000メートルのダムであるが、推定で紀元前1300年頃に建設されたとしている。現在でも上水道目的で使用されており、建設以来約三千年もの間、修繕を重ねながら稼働している貴重な遺産でもある。
現在高さ200メートル級のダムが多く存在する中近東では、メソポタミア文明時代においてチグリス川・ユーフラテス川にダムが建設されたという記録が残されている。アジアでは紀元前240年頃、黄河流域で建設されたグコーダムが初見である。戦国時代末期、現在の中国山西省付近にあった趙の領内に建設された堤高30.0メートル、堤頂長300メートルのダムである。このダムは12世紀初頭までの約1300年間、ダムの高さでは世界一であったとされている。その後前漢時代には軍事的観点でダムが建設された例が司馬遷の「史記」に記されており、「劉邦の三傑」と呼ばれた韓信が項羽との戦いにおいて戦場の近くを流れる河川にダムを建設、意図的に破壊して城塞や項羽軍に大打撃を与えた。日本では616年、飛鳥時代に河内国(大阪府)で狭山池が建設されたのが初見である。また、多目的ダム(後述)として奈良時代の731年に摂津国(現在の兵庫県伊丹市)で治水とかんがいを目的とした昆陽池が建設されている。
ヨーロッパではローマ帝国時代に上水道供給を目的としたダム建設が盛んとなり、現在でもフランスやイタリアなどに堤高20メートル規模のダムが現存、あるいは廃墟として残っている。この頃に初めてダム建設にコンクリートが使われ、止水用にモルタルが用いられた。日本においてはかんがい用として稲作の発展と共に多数のダムが建設され現存しているが、1128年(大治3年)に大和国(奈良県)に建設された大門池は高さ32.0メートルと当時としては世界一の高さであった。14世紀頃になるとスペイン各地でダム建設が行われたが、特に14世紀末に建設されたアルマンサダムはそれまで世界一であった大門池の高さを塗り替えて世界一に躍り出た。さらに1594年に完成したアーチ式コンクリートダム・チビダム(別名アリカンテダム)は高さ41.0メートルとアルマンサダムの記録を塗り替え、以後300年間に亘って記録が破られることがなかった。このように中世においてはスペインが、ダム技術で世界屈指を誇っていた。
この時期まで世界で建設されたダムはおおむね上水道、あるいはかんがいといったいわゆる利水目的のものであり、洪水調節を行う治水目的のダムは建設されていなかった。だが、17世紀に入るとヨーロッパ諸国で治水目的のためのダム建設が計画され、さらに洪水に耐えうるだけのダム型式としてダムの自重と重力を利用して堤体を安定化させる重力式コンクリートダムの技術が研究・解明されだした。フランスではナポレオン3世により河川開発が強力に推進され、1858年にはロアール川に洪水調節用ダムが建設された。プロイセンでは1833年以降比較的巨大なコンクリートダムの建設が進められるようになった。日本では遅れること1920年代にコンクリートダムの建設が盛んになり、1924年(大正13年)には当時「世界のビッグ・プロジェクト」と称えられた大井ダム(木曽川)を建設、1937年(昭和12年)には旧満州で当時東洋一といわれた豊満ダム(高さ90.0メートル)や朝鮮半島の鴨緑江に水豊ダム(高さ107.0メートル)が1942年(昭和17年)建設され、世界のダム技術に追いついて行くようになった。
治水を目的としたダムが建設されると、今度は治水と利水双方の機能を組み合わせた多目的ダムの建設が志向されるようになった。既に731年日本において僧・行基が治水とかんがいを目的とした昆陽池を建設していたが、理論自体は提唱されていなかった。多目的ダムの理論を提唱したのは1889年、プロイセンのインツェが最初であり、それを1902年にマッテルンが経済性と技術的理論を結合した形で体系化した。こうしたプロイセンの治水・利水理論は1913年にプロイセン水法として纏められた。これは治水と利水を総合的に運用する法整備として近代における河川関連法規の模範ともされ、その後1918年のスウェーデン水法、1919年のフランスにおける利水関連法規、1920年のアメリカ連邦水力法、1934年のオーストリア水法など諸外国に多大な影響を与えた。
こうした多目的ダムによる治水・利水の総合的な運用は、河川総合開発事業として発展するに至った。一つの河川にダムをはじめ用水路や水力発電所を建設し、治水やかんがい、水道供給、発電を行うことで農業・工業生産力の向上を図り、雇用を安定化させ国力を高めることを最終目的にした事業であり、流域の広範囲に亘って大規模に実施された。特にアメリカにおいては金融恐慌の後、雇用の拡大と工業生産力向上を目指して大河川の総合開発を開始した。1936年にはコロラド川に当時としては世界最大級のフーバーダムを完成させ、さらに大統領フランクリン・ルーズベルトはミシシッピー川の支流・テネシー川に多数のダムを建設して洪水調節と水力発電を行うテネシー川流域開発公社(TVA)を設立、ニューディール政策の一環として総合開発を行った。
このTVAの成功は諸外国を刺激し、第二次世界大戦後各国で河川総合開発が行われた。代表的なものとしてはソ連の五カ年計画に基づくエニセイ川(ブラーツクダム・クラスノヤルスクダムなど)・ヴォルガ川・ドニエプル川[2]の総合開発、インドにおけるダモタル川総合開発事業、オーストラリアにおけるスノーウィーマウンテン総合開発事業などがある。日本では1938年(昭和13年)に物部長穂が「河水統制計画案」として提唱し、その理論は戦後打ち続く洪水に対処するため利根川や淀川など主要7水系において「河川改訂改修計画」の策定へつながり、利根川水系8ダムなどの大規模河川総合開発が行われた。
第二次大戦後、ダム建設技術はさらに向上し高さ200メートルを超える巨大ダムが各国で続々建設されるようになった。1962年には重力式コンクリートダムとしては世界一であるグランド・ディクサーンスダム(スイス)が完成、1968年にはカナダ・ケベック州においてマルチプルアーチダムとしては世界一となるダニエル・ジョンソンダムが完成した。そして1980年にはソ連(現在はタジキスタン)がヌレークダムを建設し、高さ300メートルという既設ダムとしては世界最高のダムを建設した。現在はタジキスタンのヌレクダム上流に高さ335メートルのログンダムが建設されており、完成すれば世界一の高さになる。
貯水容量においても莫大な容量を有する人造湖が続々と誕生した。フーバーダムは総貯水容量が348.5億立方メートルと日本にある全てのダム貯水容量を凌駕する容量を有するが、ジンバブエとザンビア国境にあるカリバダムは総貯水容量が1,806億立方メートルと琵琶湖の約67倍の容量を誇り人造湖単体としては世界最大の人造湖を生み出した。1957年にウガンダに建設されたオーエン・フォールズダムが世界最大ともいわれるが、総貯水容量2兆7000億立方メートルの大半はヴィクトリア湖の容量であり、ダムによる増量分は2,700億立方メートルである。このほか世界有数の大河川の本流にもダムが建設され、1958年黄河に完成した三門峡ダム、1970年ナイル川に完成したアスワン・ハイ・ダム、1991年パラナ川に完成したイタイプダムなどはダム・人造湖の規模においても世界有数であり、2009年長江に完成した三峡ダムはダム・人造湖のほか世界最大の水力発電所を擁する。
ダムの建設技術についても、20世紀に入りさまざまな手法が開発、導入されるようになった。20世紀前半はコンクリートが高価であり、工費圧縮のためコンクリート使用を抑制する工法が開発された。代表的なものとしてはバットレスダムがあるが、この型式では地震や洪水に弱いという難点があり、盛んに建設されることは無かった。こうした問題を解決したのが中空重力式コンクリートダムであり、重力式コンクリートダム内部に空洞を設け、ダムと基礎地盤との接地面を広く設けることで少ないコンクリートで重力式と同程度の安定性を保つ型式である。これはマルチェロによって理論が纏められ、彼の母国イタリアで盛んに建設されたが日本でも導入され、単体のダムでは世界で最も高い畑薙第一ダム(大井川。125メートル)をはじめ多くの大ダムが建設された[3]。ただし空洞を形成するための型枠や人件費が高騰し、現在では施工例を見ることは極めて少ない。
コンクリートを打設する技術については、従来は区画毎に分けてコンクリートを打ち増す「ブロック工法」が主流であったが、大型機械の導入や組み合わせの試行錯誤によってスムーズなコンクリート打設を図る技術が進んだ。1967年に完成したクラスノヤルスクダム(エニセイ川)ではコンクリート製造プラントからダム現場までをベルトコンベアで結び、休みなく連続して打設できる手法を導入した。こうした手法は世界各地のダム工事で採用され、工期の短縮と工費の縮減に貢献したが、さらなる合理化を図るために開発されたのがRCDコンクリート(Roller Compacted Dam Concrete)による工法、RCD工法であった。
これは超硬練りのコンクリートをベルトコンベアやダンプカーで運搬し、ブルドーザーで敷きならした後ロードローラーで水平に薄く何層も締め固めるというものである。コンクリートの量を少なく抑える他、ブロック工法のように継ぎ目を設けないので亀裂(クラック)を起こさず、安定性と経済性で従来の工法よりも優れることが確認された。この工法が世界で初めて本格的に手掛けられたのは日本で、1972年(昭和47年)より山口県において建設省が施工した島地川ダム(島地川)が初見である。この後RCD工法は大規模なダム建設で採用され、中小規模のダムにおいてはRCD工法を中小規模用に改良した拡張レヤ工法が取り入れられた。ロックフィルダムについても大型機械の導入によって原材料の掘削や運搬、締め固め工法の技術が向上したことで大規模な体積を有するダムが多数建設された。
そして近年では、よりコンクリートの量を減らして工費縮減と工期短縮を図る型式の改良が進み、1999年(平成11年)には日本で台形CSGダムという新型式が開発された。これはセメントと土砂と水を最適な含有量で混ぜ合わせることでコンクリートに近い強度の骨材を作り、台形に仕上げることで強度を補強するものである。従来は骨材を選別するのに良質のものを選ばなければならなかったが、この型式だと品質に関係なく骨材を使用できるので工費削減と工期短縮に貢献できるとされている。2002年(平成14年)より沖縄県の億首ダム(億首川)で本格的な施工が開始されたが、洪水の処理や地震への耐久性が課題として残されている。
現在は地球温暖化問題が深刻化し、世界各地で激しい洪水や深刻なかんばつが問題になっており、既存のダム運用に対する見直しも要求されている。一般に二酸化炭素を排出しないとして水力発電は注目されてはいるが、ダムの規模や設置している地域の気候などによっては貯水池より大量にメタンガスが発生するなど悪影響等も世界ダム委員会(WCD)の最終報告書等をはじめとして多方面より指摘されており、慎重な対応が求められている。
流域土砂管理を考えた場合、環境問題としては堆砂の問題と、河川の最大流量をコントロールすることで下流へ砂がフラッシュ(流下)されないという問題もある。また、ダム設置による河川の流量や水温への影響によって、河川生態系を攪乱するという指摘もある。三峡ダムでは黄土高原から流出する黄砂が貯水池に堆積、完成から二年で貯水池が埋没してダム機能が麻痺する事態が発生。さらにアスワン・ハイ・ダムでは下流への土砂流下減少によってナイル・デルタ縮小という問題が発生している。またメコン川上流に現在建設されている小湾ダムでは、国際河川であるメコン川の環境保全を巡ってダムを建設する中国と下流諸国の意見が食い違うなど、国際問題への発展を内在するダムもある。堆砂については従来の浚渫(しゅんせつ)主体から排砂バイパストンネルによる抜本的対策が試行されているほか、流砂連続性を確保するための人工洪水試験がグレンキャニオンダム(アメリカ)やスイスの発電用ダム、日本の国土交通省直轄ダムの一部などで実施されている。ただし現在は試行段階であるため、海岸侵食などを有効に防止するまでには至っていない。
ダム技術を切り拓いたヨーロッパ各国では、ダムのみではない多様な施策により治水安全度が格段に向上しドナウ川やテムズ川をはじめ多くの大河川で一万年に一度の大洪水に耐えうる(日本では最大で百年から百五十年に一度)だけの治水整備(住宅撤去などによる氾濫(はんらん)原の復元など)が行われ、ダム建設は事実上終焉している。アメリカでは1990年代に内務省開拓局長官であったダニエル・ビアードが「アメリカではダム建設の時代は終わった」と発言し、物議を醸した。日本ではこうした欧米の動きや、談合などの公共事業に関連する不透明な税金使用を背景にダム反対派が勢いを強め、「脱ダム宣言」をはじめダム事業に否定的な動きが活発化している。
また多数の死傷者を伴うダム決壊事故も国内含め世界中で発生しており、その度にダムに対する安全性が問われ技術、運用面の改善が求められている。フランスのマルパッセダム決壊事故(1959年)ではダム本体の安全性のみならずダム両岸の基礎岩盤の安定性が重要視され、アメリカのティートンダム決壊事故(1976年)では岩盤の安定性だけではなく水分の透過性も重要視され、以降ダムの基礎工事が建設においては特に注意を払われた。さらに貯水の際における諸問題として地盤の変化に伴う地すべりや誘発地震の問題も指摘され、1963年のバイオントダム地すべり事故(イタリア)では2,000人の死者を出す惨事を招いた。因みに、史上最悪のダム決壊事故はアメリカ・ペンシルベニア州に建設されたサウスフォークダムで、1889年5月31日に決壊しジョンズタウンを壊滅させ2,200人以上の死者を出した。ギネスブックにも掲載されている。
また第二次世界大戦におけるイギリス空軍によるチャスタイズ作戦や第四次中東戦争におけるアスワン・ハイ・ダムへのイスラエル空軍によるペイント弾空爆など、戦争やテロリズムによっては、ダムは攻撃の対象となる。朝鮮戦争において鴨緑江に戦前日本が建設した水豊ダム(スープンダム・北朝鮮)はアメリカ空軍による集中爆撃を受けたが、重力式コンクリートダムの特徴が幸いしダムは決壊せずに持ちこたえている。だがリスク管理やテロ対策の面からも十分な対策が求められている。幾つかの国家ではダムは軍事施設にならぶ重要な防衛拠点として、写真撮影を含み立ち入りが禁じられていることもある。
さらにダムによって文化財が水没するという問題も発生、アスワン・ハイ・ダムではアブ・シンベル神殿が水没することとなり、ユネスコなどの援助・指導によって移転されている。また三峡ダムでは三国志で有名な劉備終焉の地・白帝城が半分以上水没するなどの問題が起こった。そして、水没住民に対する補償や対策の法整備がされていない途上国も多数あり、日本のODAや世界銀行などの、国際資本の進退が注目されている。
『21世紀は水戦争の時代』と呼ばれる中、水資源開発とその保全は油田開発に匹敵する重要課題であると指摘する専門家も多い。実際問題として国連は水質汚染と共に水不足を水の危機として警告を発しており、複数の国家間で紛争が発生している。日本を含め、ダムを始めとする河川開発と環境保護の整合性をいかに取るかが大きな問題であり、ダム事業は新たなる岐路に立っている。
ダムのタイプ、いわゆる型式(かたしき)によるダムの分類としては、大別すると土や砂、岩石を積み上げて建設されるフィルダムと、コンクリートを主原料として建設されるコンクリートダムの二種類があり、おのおの細分化した型式が存在する。このほか両者を連結・複合させたコンバインダム(複合ダム)や、日本で開発された新型式である台形CSGダムがある。いずれもアルファベットの略号で表されることもある。
ただしロックフィルダムとアースダムについては世界的に見ると明確な区別がなされてはいない。外観がロックフィルダムであってもアースダムとして分類される(カナダのマイカダムなど)ことがあり、材料を混成して施工されることが要因となっている。したがって両方の型式を包括してフィルダムまたはフィルタイプダム、あるいはエンバクトメントダムと呼称される。ロックフィルダムを細分化した亜型で分類するのは日本が代表的である。
地形や地盤、気候、河川流量、さらには地震の有無などにより採用される型式が異なり、地域によって特性が見られる。一般にアルプス山脈一帯や中近東は基礎岩盤が比較的堅固であるためコンクリート量を節減し経済性に優れるアーチ式コンクリートダムが多く建設されている。一方日本やアメリカ西海岸(カリフォルニア州)のような地震多発地域では地震や洪水に最も強い重力式コンクリートダムが多い。
分類 | 小分類 | 略号 | 解説 |
---|---|---|---|
コンクリートダム | 重力式 コンクリートダム |
G | ダムの自重と重力を利用して水圧を支えるダム型式。 |
中空重力式 コンクリートダム |
HG | ダムの堤体内が空洞になっている重力式コンクリートダム。 イタリアや日本に多く見られる型式。 |
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アーチ式 コンクリートダム |
A | 河川両側の堅固な岩盤に水圧を分散させて支えるダム型式。 全世界における堤高200メートル以上のハイダムで多く採用されている型式である。 |
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重力式アーチダム | GA | 重力式とアーチ式の両型式の特性を備えたダム型式。 | |
マルチプル アーチダム |
MA | 複数のアーチが連なるダム型式。 扶壁で支える点からバットレスダムに比較的近い。 |
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バットレスダム | B | 水を遮る壁(遮水壁)を垂直に扶壁で支えるダム型式。 地震や洪水に弱いため余り堤高を高くできない。 |
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フィルダム | アースダム (アースフィルダム) |
E | 台形状に盛り土を行って建設されるダム型式。 地震の少ない地域では堤高200メートル以上のハイダムも存在する。 |
ロックフィルダム | R | 土砂と岩石を主体として建設されるダム型式。遮水壁の位置・種類によって種類が細分化される。 | |
コンバインダム(複合型ダム) | GF | 重力式と、アースまたはロックフィルダムが複合したダム型式。 | |
台形CSGダム | CSG | 日本で近年開発されたダム型式。事業費削減に貢献することができる。 |
|
地下水を貯水するため、地下に設ける止水壁を地下ダムという。これは、地下水の流れを土中でせき止め、そこから汲み上げて使用するという発想に基づくものである。地下に空洞を作って地底湖のように貯水をするわけではない。
例えば、海岸部においては海水が地下水へ侵入するのを防ぎ、地下水の塩水化を防止する役割を果たすものとなっている。また、内陸部の場合は、帯水層の水が分散するのを塞き止めて、地盤内の隙間に水を貯える構造のものとなる。具体的には、サンゴ礁の島々など山岳地帯の少ない離島・海岸部の地点や、内陸部では自然の止水層が多くあり人工止水壁が少なくてすむ地点などに用いられる。
世界的にはワジが多く存在するサハラ砂漠など乾燥地帯に集中し、これは日本と異なり、降雨量に対して蒸発量が大きく無視できない地域においては、貯水表面が外気に曝されないため、貯水の損失を防ぐ観点から有効である。日本(日本ダム協会調べ)では主に沖縄県を中心とした島嶼部や海岸沿いの地域に集中しており、福里ダムなど14基建設されている。
ダム本体がステンレスなどのいわゆる鋼で形成されているダム。人造湖側は水を遮る壁(遮水壁)を設け、支柱などで基礎地盤と連結して貯水し、下流部をステンレスで形成する型式のダム。断面の形状としてはバットレスダムに似る。安定性を保つために地中にアンカーを設置し水圧に耐える構造を採っている。20世紀初頭に幾つか建設されたが現在施工例はない。
諸元とは、高さや、重量などのいわゆる概要であり、高さ等呼称は下記の通り。
諸元 | 単位 | 解説 |
---|---|---|
堤高 | m | 「ダム高」とも呼ぶ。基礎岩盤接地部からのダム堤体の高さを指す。 岩盤を深く掘削して建設しているダムでは見かけ上低く見える。 |
堤頂長 | m | ダム頂上部の長さ。一般に堤高に比して長い。 まれに堤高と堤頂長の比が逆転しているダムもあり、 |
堤体積 | m³ | ダム堤体の体積。 ロックフィルダムでは体積が大きくなる |
総貯水容量 | m³ | 満水時にダム湖に貯水される河水の総量。 洪水調節容量・利水容量・堆砂容量・死水容量の総和で量られる。 |
有効貯水容量 | m³ | 総貯水容量から堆砂容量と死水容量を差し引いた容量。 実際に治水・利水に利用される貯水容量である。 |
流域面積 | km² | ダム湖に注ぐ全ての河川が流れている地域(流域)の総面積。 面積が極端に狭いダムは揚水発電の上池であったり、 |
湛水面積 | ha km² |
ダム湖の満水時における表面積。 湛水面積が広いからといって総貯水容量が多いとは限らないが、 |
現在、世界における最大の堤高を有するダムはタジキスタンに建設されている水力発電用のログンダムで335メートルの高さがあり、完成すれば東京タワー(333メートル)を超える高さを誇る。現在既設ダムで世界一であるヌレークダム(300メートル)も同じタジキスタンの同一河川にある。堤高200メートル以上のダムを型式別で見るとアーチ式コンクリートダムが最も多く、続いてフィルダムが多い(『ダム便覧』世界のハイダム)。
また、総貯水容量では人造湖単体としてはジンバブエとザンビアの間に建設されたカリバダムが最も容量が大きく、その総貯水容量は実に約1,806億立方メートルであり琵琶湖(約27億立方メートル)の約67倍の容量を誇っている。自然湖をダム化したものを含めると、ウガンダに建設されたオーエンフォールズダムの約2兆7000億立方メートル(琵琶湖の約1,000倍)が最大であるが、容量の九割はヴィクトリア湖の容量であり、ダムによる増加分は2,700億立方メートルである。その他堤高の高いダムに関しても、容量が100億立方メートル級のダムが軒を連ねている(『ダム便覧』世界の貯水池容量の大きいダム)。面積においてもカリバダムが約5,180平方キロメートルと世界最大の広さを有し、三峡ダムのように貯水池延長が約500キロメートルという規模を持つダムもある。
ダムによる水力発電量ではブラジル・パラグアイにあるイタイプダムが最大であり、その最大出力は1,260万キロワットと日本最大の水力発電所である神流川発電所(群馬県・長野県。282万キロワット)の約4.5倍もの電力を供給する。だが2009年中国に完成予定の三峡ダム(長江)ではイタイプダムのそれを560万キロワットも上回る1,820万キロワットを発電する予定であり、全面稼動すれば世界最大の水力発電所となる。
順位 | 国名 | ダム名 | 型式 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 |
完成年 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1位 | タジキスタン | ログンダム | ロックフィル | 335.0 | 13,300,000 | - | 建設中 |
2位 | タジキスタン | ヌレークダム | アース | 300.0 | 10,500,000 | 1980年 | 既設世界一 |
3位 | 中国 | 小湾ダム | アーチ | 292.0 | 15,100,000 | - | 建設中 |
4位 | スイス | グランドディクサーンスダム | 重力式 | 285.0 | 401,000 | 1961年 | |
5位 | グルジア | イングリダム | アーチ | 272.0 | 1,100,000 | 1980年 | |
(参考) | 富山県 | 黒部ダム | アーチ | 186.0 | 199,285 | 1963年(昭和38年) |
順位 | 国名 | ダム名 | 型式 | 堤高 (m) |
総貯水 容量 |
完成年 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1位 | ジンバブエ ザンビア |
カリバダム | アーチ | 128.0 | 180,600,000 | 1959年 | |
2位 | ロシア | ブラーツクダム | 重力式 | 125.0 | 169,000,000 | 1964年 | |
3位 | エジプト | アスワン・ハイ・ダム | ロックフィル | 111.0 | 162,000,000 | 1970年 | ナセル湖 |
4位 | ガーナ | アコソンボダム | ロックフィル | 134.0 | 150,000,000 | 1965年 | ボルタ湖 |
5位 | カナダ | ダニエルジョンソンダム | 多連式アーチ | 214.0 | 141,851,350 | 1968年 | |
(参考) | ウガンダ | オーエンフォールズダム | 重力式 | 30.0 | 2,700,000,000 270,000,000 |
1957年 | 上段はヴィクトリア湖を含む 下段はダム単体の増量分 |
(参考) | 岐阜県 | 徳山ダム | ロックフィル | 161.0 | 660,000 | 2008年(平成20年) |
順位 | 国名 | ダム名 | 型式 | 堤高 (m) |
認可出力 (kW) |
完成年 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
1位 | 中国 | 三峡ダム | 重力式 | 185.0 | 18,200,000 | 2009年 | |
2位 | ブラジル パラグアイ |
イタイプダム | 複合型 | 196.0 | 12,600,000 | 1991年 | |
3位 | ベネズエラ | グリダム | 複合型 | 162.0 | 10,000,000 | 1986年 | |
4位 | ブラジル | トゥクルイダム | ロックフィル | 95.0 | 8,370,000 | 1984年 | |
5位 | ロシア | サヤノシュシェンスカヤダム | 重力アーチ | 242.0 | 6,400,000 | 1990年 | |
(参考) | 長野県 群馬県 |
南相木ダム 上野ダム |
ロックフィル 重力式 |
136.0 120.0 |
2,820,000 | 2005年(平成17年) | 揚水発電 |
ダムに付けられる名称は通常計画の段階で命名されるが、途中で変更になる場合もある[4]。命名については、河川名やダム建設地点の地名が採用されるケースが多い。この他キエフダム(ドニエプル川・ウクライナ)やクラスノヤルスクダム(エニセイ川・ロシア)など所在都市名を採用したもの、三峡ダム(長江・中国)や三門峡ダム・劉家峡ダム(黄河・中国)、豊平峡ダム(豊平川・日本)など峡谷名を冠したものなど、多彩である。また、同一河川・水系に建設されたダムの中には、完成順に番号で命名されているものもあり、イランにあるカールーン第一・第三・第四ダム(カールーン川)はその一例である。ダムによって形成された人造湖についても同様の傾向が見られるが、名称が特に定まっていないものも多い。日本ではダム完成前に一般公募によって人造湖の名称を決めるケースが多くなっている。
特殊な例としては、人名を冠したダムがある。これらは該当するダムまたは建設事由である河川総合開発事業において主導的な役割を果たした、あるいは国政に功績のあった政治家を顕彰する意味を込めて命名されている。以下に示したものは、その一例である。
人造湖については先述のミード湖のほか、アスワン・ハイ・ダム(ナイル川・エジプト)の人造湖が同事業を強力に推進した第2代エジプト大統領ガマール・アブドゥン=ナーセルにちなんでナセル湖と命名された例、グランドクーリーダム(コロンビア川・アメリカ)の人造湖が建設を推進・指揮した第32代アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトにちなみルーズベルト湖と命名された例などがある。
ダムは周辺の自然環境や生活環境など多くの事柄に大変大きな影響を及ぼすことからさまざまな問題やそれに対する解決策を模索することとなる。ダムが環境へ及ぼす問題、建設に伴う周辺住民によるダム建設の是非とそれに伴い中止したダム事業の年次的な増加やダム事業の長期化、両問題などを解決するためダムの代替案など、多くのダムにおいて課題となる。ダム問題はこの他に以下のような事故、事件、訴訟などもあり大きな社会問題になる場合がある。また、ダムの建設や貯水によって誘発地震が発生する可能性もある。
ダムが環境へ及ぼす問題は建設された川の流域から河口の海岸へ及ぶ事もあり、ダムが建設される土地だけにとどまらない。
詳細は、別項ダムと環境を参照。
ダム事故のなかでダムが完全に破壊される「決壊事故」(崩壊事故)は多数の犠牲者を出す最も重大な事故である。特に大雨によるダム本体からの越流や地震による崩壊といった天災に、施工不良や管理不良といった人災が重なって起こる場合がほとんどを占める。中には戦争による空爆や意図的なサボタージュによって事故が起こることもある。前漢時代に劉邦の三傑といわれた韓信は、軍事的観点で土嚢によるダムを建設して意図的に破壊しその洪水によって項羽軍に打撃を与える戦術を多用していた。
最も危険なのはダム湖に試験的に貯水を行う「試験湛水(たんすい)」時であり、この工程中に決壊する例も多い。したがって試験湛水中はダム本体のみならず人造湖に接する周囲の地盤にも多大な注意を払っている。以下に主な事故を挙例する。
日本のダムに関連する作品については、日本のダム#ダムが登場する作品を参照のこと。
日本人に関しては日本のダム#日本のダムに関連する人物を参照のこと
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