出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/06/26 05:30:59」(JST)
この項目では、物理現象について記述しています。コーヒーの抽出機器については「コーヒーサイフォン」をご覧ください。 |
サイフォン(siphon、ギリシア語で「チューブ、管」の意味)とは、隙間のない管を利用して、液体をある地点から目的地まで、途中出発地点より高い地点を通って導く装置であり、このメカニズムをサイフォンの原理と呼ぶ。発明者は水時計などを作った紀元前3世紀半ばのアレクサンドリアの技術者、クテシビオスではないかと言われている。
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ある液体を途中にある高い地点を越えて目的地に運ぶ時、液体の初期の地点から目的地まで管を引き、何らかの作用によっていったん液体を管の中に満たせば、それ以上のエネルギーを与えることなく、液体は初期の地点から目的地まで移動し続ける。
ここで、出発(タンクの水面)地点と目的地点の圧力がともに大気圧であり、さらに出発地点において液体が静止している場合について考える。出発地点が目的地点より高い位置にある場合、出発地点における位置エネルギーは目的地点のそれよりも高くなる。管内が液体で満たされているときにはこの系においてエネルギー保存則(ベルヌーイの定理)が成り立つため、位置エネルギーと運動エネルギー、圧力の和が等しくなり、位置エネルギーの差分は運動エネルギーとなって液体は目的地点へと流れる。
途中、どれくらい高い地点を通ることができるかは、大気圧、蒸気圧と液体の比重とによる。ベルヌーイの定理は系のどの部分でも成り立つので、最高地点におけるエネルギーについて考える。仮に最高地点において液体の圧力が蒸気圧より低くなった場合、液体は気化する(キャビテーション)。ベルヌーイの定理は流れが定常かつ流体が非圧縮性であるときに成り立ち、液体が気化した時点でサイフォンは停止する。したがって、サイフォンが成立できる最大の高さは、液体の密度と出発地点の圧力によって決定される。1気圧下において、水ならば出発地点から最高約10 mの高さを通るサイフォンを作ることができ、水銀の場合は約76 cmのサイフォンが作成可能である。
サイフォンの仕組みは液体を鎖に模したモデル[1]で説明される。 これは、滑車を経由して鎖が一方からもう一方へと移動するものである。
サイフォンを構成する管に特別な細工は必要ないが、管を液体で満たすまでにポンプが必要になる。管の大半に最初から液体が充填されていれば、管の出口を塞ぎ、気密を保ったまま元の液面より低くすれば、始動にポンプは必要ない。
身近な利用例として灯油ポンプが挙げられる。例えばポリタンクから暖房器具のタンクへ灯油を移すとき、ポリタンクの液面が暖房器具のタンクの液面より高ければ、始めにポンプを数回操作して管を灯油で満たせばサイフォンの原理によって灯油は流れ続ける。
大規模なサイフォンは、局地的な水道設備や工業においても用いられる。このような規模のものでは、取水口と排水口、最高地点とにおいてバルブによる制御が必要になる。この場合、取水口と排水口のバルブを閉め、最高地点から液体を流し込むことでサイフォンを始動させる。取水口と排水口とが水面下にある場合には、最高地点でポンプを動かして始動させることもある。また、取水口と排水口との両方でポンプを動かして始動させる場合もある。大規模なサイフォンにおいては液体中に気体が混入していると、最高地点に滞留し、水の流れを分断してサイフォンの動きを停止させてしまう。サイフォンの構造そのものもこの問題を増幅させてしまう。 液体は最高地点に進むに連れて圧力が低下していくので、液体中に溶け込んでいる気体が気化してしまうからである。温度が高くても蒸気圧の上昇によって同様の問題が起こるため、サイフォンを動作させるときには温度が低く保たれる。サイフォンの全長が長ければ長いほど圧力損失の影響で気化の可能性も高まるため、できるだけ短く設計することも効果がある。液体の流れ自体に気体を移動させる効果がある。大規模なサイフォンでは、最高地点では気体を集めて排出する空気室が設けられる。
また水洗便所のタンクからの排水方式や、便器の洗浄方式にも、この原理が応用されており、吸引力がある詰まりにくい便器として普及している。
2010年、オーストラリア・クイーンズランド大学の物理学者、スティーブン・ヒューズが辞書など社会で一般に説明されているサイフォンの原理は誤りであると指摘した[2]。サイフォンの原理の説明の多くは大気圧の力によるとされているが、ヒューズは、正しくは重力によると指摘している。ヒューズがこの事に気付くきっかけとなったオックスフォード英語辞典は1911年から大気圧によるものであるとしており、次の版でヒューズの指摘を反映するという[2]。
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