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出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2013/12/07 20:19:12」(JST)
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マスタードガス |
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IUPAC名
Bis(2-chloroethyl) sulfide
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別称
Iprit
Schwefel-Lost
Lost
Mustard gas
Senfgas
Yellow Cross Liquid
Yperite
Distilled Mustard
Mustard T- mixture
1,1'-thiobis[2-chloroethane]
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識別情報 |
CAS登録番号 |
505-60-2 |
PubChem |
10461 |
ChemSpider |
21106142 |
KEGG |
C19164 |
ChEBI |
CHEBI:25434 |
ChEMBL |
CHEMBL455341 |
|
- InChI=1S/C4H8Cl2S/c5-1-3-7-4-2-6/h1-4H2
Key: QKSKPIVNLNLAAV-UHFFFAOYSA-N
InChI=1/C4H8Cl2S/c5-1-3-7-4-2-6/h1-4H2
Key: QKSKPIVNLNLAAV-UHFFFAOYAK
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特性 |
化学式 |
C4H8Cl2S |
モル質量 |
159.08 g mol−1 |
外観 |
純粋なものは無色透明
Normally ranges from
薄い黄色~暗褐色
Slight garlic or horseradish type odour[1] |
密度 |
1.27 g/mL, 液体 |
融点 |
14.4 °C, 287.6 K, 57.9 °F
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沸点 |
218 °C, 491 K, 424 °F (begins to decompose at 217 °C and boils at 218 °C)
|
水への溶解度 |
無視できるほど |
溶解度 |
エーテル、ベンゼン、脂肪、アルコール、テトラヒドロフランに溶ける |
危険性 |
MSDS |
External MSDS |
EU分類 |
Very toxic (T+)
Dangerous for the environment (N)
Vesicant
Carc. Cat 1 |
主な危険性 |
毒, contact hazard, inhalation hazard, corrosive, environmental hazard, carcinogenic, possibly mutagenic |
引火点 |
105 °C |
関連する物質 |
関連物質 |
ナイトロジェンマスタード |
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。 |
マスタードガス (Mustard gas) は、化学兵器のひとつ。2,2'-硫化ジクロロジエチル(2,2'-Dichloro Diethyl Sulfide)という化合物を主成分とする。びらん剤(皮膚をただれさせる薬品)に分類される。硫黄を含むことから、サルファマスタード(Sulfur mustard gas)とも呼ばれる。
主にチオジグリコールを塩素化することによって製造される。また、二塩化硫黄とエチレンの反応によっても生成される。純粋なマスタードガスは、常温で無色・無臭であり、粘着性の液体である。不純物を含むマスタードガスは、マスタード(洋からし)、ニンニクもしくはホースラディッシュ(セイヨウワサビ)に似た臭気を持ち、これが名前の由来である(他にも、不純物を含んだマスタードガスは黄色や黄土色といった色がついている為に、マスタードの名が付けられたという説もある)。第一次世界大戦のイープル戦線で初めて使われたため、イペリット(Yperite)とも呼ばれる。
実戦での特徴的な点として、残留性および浸透性が高いことが挙げられる。特にゴムを浸透することが特徴的で、ゴム引き布を用いた防護衣では十分な防御が不可能である。またマスクも対応品が必要である。気化したものは空気よりもかなり重く、低所に停滞する。
マスタードガスは遅効性であり、曝露後すぐには被曝したことには気付かないとされる。皮膚以外にも消化管や、造血器に障害を起こすことが知られていた。この造血器に対する作用を応用し、マスタードガスの誘導体であるナイトロジェンマスタードは抗癌剤(悪性リンパ腫に対して)として使用される。ナイトロジェンマスタードの抗癌剤としての研究は第二次世界大戦中に米国で行われていた。しかし、化学兵器の研究自体が軍事機密であったことから戦争終結後の1946年まで公表されなかった。一説には、この研究は試作品のナイトロジェンマスタードを用いた人体実験の際、白血病改善の著効があったためという。
人体への作用[編集]
マスタードガスは人体を構成する蛋白質やDNAに対して強く作用することが知られており、蛋白質やDNAの窒素と反応し(アルキル化反応)、その構造を変性させたり、DNAのアルキル化により遺伝子を傷つけたりすることで毒性を発揮する。このため、皮膚や粘膜などを冒すほか、細胞分裂の阻害を引き起こし、さらに発ガンに関連する遺伝子を傷つければガンを発症する恐れがあり、発癌性を持つ。また、抗がん剤と同様の作用機序であるため、造血器や腸粘膜にも影響が出やすい。
歴史[編集]
- 1859年、ドイツの化学者アルベルト・ニーマン(Albert Niemann)により初めて合成。彼は皮膚への毒性を報告するが、2年後に中毒が原因と思われる肺疾患により死去。翌1860年にはイギリスのフレデリック・ガスリー(Frederick Guthrie)も合成して毒性を報告している。
- 1886年、ドイツの研究者ヴィクトル・マイヤーが農薬開発の過程で合成法を完成。彼はその毒性に手こずり、実験を放棄。
- 1917年7月12日、第一次世界大戦中にドイツ軍がカナダ軍に対して実戦で初めて使用し、約3500人の中毒者のうち89人が死亡。その後、同盟国・連合国の両陣営が実戦使用した。大戦中のドイツ・フランス・イギリス・アメリカの4ヶ国での生産量は計1万1千tに及んだ。
- 1938年(昭和13年) - 1945年(昭和20年):日中戦争中、関東軍防疫給水部(731部隊)はマスタードガスを含む化学兵器を研究しており、戦場において毒ガス砲弾が実際に使用されたとされる。ハルビン731ベース廃墟では最近、古いマスタードガス砲弾が発見された。数年前に、中国各地でマスタードガス砲弾が発見され、地下に埋められてまだ発掘されていないものも未だに存在する。
- 1943年12月、イタリア南部のバリ港にて、アメリカの貨物船「ジョン・ハーヴェイ号」がドイツ空軍の爆撃を受け、大量のマスタードガスが流出し、アメリカ軍兵士と一般市民617名が負傷、83名が死亡した。(ジョン・ハーヴェイ号事件)
- イラン・イラク戦争時、イラク軍はイラン軍および自国のクルド人に対し、マスタードガス、サリン、タブンを使用したと言われる(但し異説あり)。このうちクルド人に対して行なわれたものを、事件の起こった町の名を取って「ハラブジャ事件」と呼ぶ。詳細はハラブジャ事件の項を参照。
出典[編集]
- ^ FM 3–8 Chemical Reference handbook, US Army, 1967
化学兵器関連の記事 |
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血液剤 |
シアン化塩素 (CK) - シアン化水素 (AC)
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びらん剤 |
ルイサイト (L) - サルファマスタード (HD, H, HT, HL, HQ) - ナイトロジェンマスタード (HN1, HN2, HN3) - ホスゲンオキシム (CX) - エチルジクロロアルシン (ED)
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神経ガス |
G剤
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タブン (GA) - サリン (GB) - ソマン (GD) - エチルサリン (GE) - シクロサリン (GF) - GVガス
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V剤
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VEガス - VGガス - VMガス - VXガス
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窒息剤 |
塩素ガス - クロロピクリン (PS) - ホスゲン (CG) - ジホスゲン (DP)
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無力化ガス |
Agent 15 (BZ) - KOLOKOL-1
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嘔吐剤 |
アダムサイト - ジフェニルクロロアルシン - ジフェニルシアノアルシン
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催涙剤 |
トウガラシスプレー (OC) - CSガス - CNガス (mace) - CRガス
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焼夷剤 |
三フッ化塩素
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対物剤 |
パイロフォリック - 機動阻止システム
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化学兵器規制 |
ジュネーヴ議定書 - 化学兵器禁止条約 (CWC) - 化学兵器禁止機関 (OPCW) - 遺棄化学兵器問題
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(補足:関連項目) |
催涙スプレー - 防犯装備 - スカンク
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Japanese Journal
- 化学兵器シリーズ 化学・生物戦争の世紀(29)イペリット砲弾(黄十字弾)による化学戦の新たな展開
- 日本軍の毒ガス戦 : イペリット・ルイサイトの使用 1939-1941 (呉天降教授古稀記念論文集)
- 遺棄化学兵器の微生物処理キノコによるイペリットの分解
- バイオサイエンスとインダストリー = Bioscience & industry 60(4), 39-40, 2002-04-01
- NAID 10008260883
Related Links
- 第一次世界大戦のイープル戦線で初めて使われたため、イペリット(Yperite)とも 呼ばれる。 実戦での特徴的な点として、残留性および浸透性が高いことが挙げられる。 特にゴムを浸透することが特徴的で、ゴム引き布を用いた防護衣では十分な防御が不 可能で ...
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