出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2012/12/30 06:35:35」(JST)
半導体検出器 (はんどうたいけんしゅつき, Semicondoctor detector) または固体検出器 (こたいけんしゅつき, solid state detector, SSD) とは、半導体を利用した粒子あるいは放射線検出器である。 主にシリコンまたはゲルマニウムが用いられる[1] [2]。 他の検出器 (シンチレーション検出器など) に比べエネルギー分解能にすぐれており[3]、 関連分野の実験や個人の被曝量を測る線量計[4]、ガンマ線スペクトルを解析することによる核種の同定などに用いられる。
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上述の通り、他の放射線検出器に比べエネルギー分解能に極めて優れているため、放射線のもつエネルギーを精密に測定できる。このため、高エネルギー物理学の実験などで放射線のエネルギーを精密に測定することはもちろん、高い確率で特定のエネルギーを持った放射線を放出する放射性同位体の放射線を測定エネルギーから逆算して求められるので、核テロ対策や、環境放射線の計測などで放射性物質をある程度推定することが可能である (壊変図式も参照)。特にGe半導体検出器はガンマ線エネルギー分解能が約2 eVと非常に高いため、今日では核種の同定にはほとんどGe半導体検出器が用いられる[4]。しかし高い確率で特定の放射線を放出しない核種や、これらの検出器で検出できない放射線を放出する核種・反応などは、当然ながら同定できない。
ゲルマニウム半導体検出器はNaIシンチレーション検出器に比べ約50倍と極めて高い分解能を誇り[4]、原子核物理学はもちろん、放射線医学、高エネルギー天文学などでも利用される。
分解能に非常に優れているため低レベル放射線でも感度よく計測できる。しかし裏をかえせば特定の試料の放射線を計測したい場合、バックグラウンドレベルの放射能でもノイズとなる。このため、試料の放射線を測定するには遮蔽体で検出器を覆う必要がある。特に厚さ10 cm程度の鉛で検出器を覆い、更に内部に1 mm程度のカドミウム、さらにはその内側に1 mm程度の銅で覆うことによって、ほとんどのノイズ放射線を除去できる。鉛の同位体からの放射線や80 keVの鉛の特性X線はカドミウムによって遮蔽され、銅はカドミウムの23 keVの特性X線を遮蔽するのに用いる。しかしカドミウムの特性X線レベルの放射線に対してはGe半導体検出器は感度が皆無であるので、測定可能エネルギー領域が広い検出器に対しては有効である。検出器に数mm程度のアクリルなどのプラスチックキャップをかぶせる事があるが、これはベータ線などの電子を遮蔽する事と、制動放射の抑制が目的である[4]。
基本的な動作原理は気体電離箱と同じであり[2]、放射線が半導体検出器を通過するとそれらによって電離した電子が電子-正孔対を作り出し、これを逆バイアス電場によって電極に集める。こうして集められた電荷をチャージセンシティブアンプ (電荷総量に比例した信号を出力する増幅器) [1]を介して増幅・測定するこにより、空孔内部で失われたエネルギーがわかる[1]。電子-正孔対を1個作り出すのに必要なエネルギーは、ゲルマニウム半導体検出器で2.96 eV[2]、シリコン半導体検出器で3.64 eVである[2]。これは電離箱、比例計数管などのガス形式の検出器では約 100 eVに対して1個のイオン対しか発生しない[1]。
Ge半導体検出器はバンドギャップの幅が小さいため、常温では熱エネルギーによりバンドギャップを超えて電子が存在するので電気抵抗が低すぎて検出器としては使いものにならない。液体窒素により冷却することによってバンドギャップを超える電子がなくなるので抵抗値が実用レベルになって検出器として用いることができる[4]。使用しないときは常温で保管が可能である。Ge半導体検出器では結晶不感部により吸収されてしまうので測定可能エネルギー下限はせいぜい50 keV程度である[4]。
放射線スペクトルの解析を行うには上述の通り増幅器によって電気パルスを増幅し、これを多重波高分析器 (MCA) で解析する。検出器の分解能が高いため、性能を存分に発揮するためにはNaIシンチレーション検出器を用いたスペクトル解析とは違い安定性の高い増幅器・チャンネル数の多いMCA (通常 4096 ch) を用いる必要性がある。
Si(Li)半導体検出器とシリコンドリフト検出器がある。主に、エネルギー分散型X線分析で用いられることが多い。 放射線分野では、分解能に優れているので核種の同定などに威力を発揮し、特に低エネルギー領域の測定に用いられる。測定の方法はGe半導体検出器と変わらない。
Siの結晶にLiをドリフトした検出器で、こちらは100eV程度から20 keV程度までのX線の分解能に優れ、検出効率はほぼ100%である[4]。しかしGe半導体検出器と違いSiは原子番号が小さいため、最大50 keV程度までのX線が測定の限界である[4]。
十分に使用するためには、液体窒素温度まで冷却する必要がある。
Siにドリフト電圧を印可した検出器である。Si(Li)に比べ、高エネルギー側の感度が悪いが、高いエネルギー分解能を維持したまま、多くのX線を計数することが可能である。近年、エネルギー分散型X線分析では、SDDが主流となってきている。液体窒素温度まで冷却する必要がなく、ペルチィエ冷却で使用できるため、小型かつ軽量となっている。
このように使用時・保存時ともに低温に冷却する必要性がある検出器が多いが、最近では電気冷却が可能なものや、室温程度で動作するCdTeなどを用いた検出器の研究も進められており、分解能はGe半導体検出器などには劣るもののシンチレーション検出器に比べれば10倍程度と十分高い分解能を有するので[4]、医学や高エネルギー天文学、環境放射線の計測などへの応用が期待されている。
また、最近用いられている個人被曝量を測定する線量計などはシリコン半導体検出器を採用したものも多い[4]。これは冷却しなくても常温で使用できる。
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