出典(authority):フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』「2021/03/11 06:47:08」(JST)
この項目では、精神科医による専門診療科について説明しています。メンタルヘルス関連の診療科一覧については「精神障害#診療科」をご覧ください。 |
精神科(せいしんか、英語: Department of Psychiatry)とは、医療機関における医科の診療科の一つであり、医学分野の一つである。精神障害・精神疾患・依存症・睡眠障害・不安障害・認知障害を主な診療対象とする。
精神疾患の治療は、経済協力開発機構(OECD)諸国においては、主にプライマリケアを担当する総合診療医が担っている(精神障害#診療科も参照)[1]。日本では精神科医とかかりつけ医に相当する内科医が担っている。プライマリケアは整備途上であるため、プライマリケア医との連携が今後の課題である[2]。厚生労働省は「G-Pネット」としてプライマリケア医と精神科医の連携を進める政策を取っている[3]。
現在の日本の精神科病院は、精神障害及び精神障害者へのスティグマから、診察に訪れにくいイメージが強かったため、近年では医療機関名の呼称を「心療クリニック」「メンタルクリニック」などにしたり、診療科目として「神経科」「心療内科」「メンタルヘルス科」と標榜したりして、外来患者が訪れやすくする工夫がされるようになった[* 1]。公の上では2006年、精神病院の用語整理法が成立し[* 2]、精神病院を精神科病院と呼ぶことになっている。医学部のカリキュラム文書では精神科単科病院と表記される。病院によっては精神医療専門病院と呼ぶところもある。
主な診療対象として、統合失調症に代表される精神障害・睡眠障害・知的障害・不安障害・発達障害・認知障害・ギャンブルや飲酒を原因とする依存症等が挙げられる。麻薬や覚醒剤等の薬物依存症の治療も行う病院(依存症専門医療機関)があるが、日本では欧米と異なり、治療などの予防よりも薬物犯罪としての処罰を重視する傾向や、薬物患者に対する非寛容傾向が強いことや、薬物治療を行うクリニック病院が少数であることから、薬物依存患者が減少しにくいという指摘がある[4]。
診療所では主に鬱病・双極性障害などの気分障害、不安障害、睡眠障害の治療に当たっている。依存症の治療を専門に行う診療所も各地に存在する。
日本では、外来のみの診療を行う診療所(クリニック)、入院施設を有する精神科病院、旧総合病院の一部門としての精神科の3種類の診療形態があり、それぞれ機能分化している。
日本では2002年の診療報酬改定にて、精神科救急入院料病棟(スーパー救急精神病棟)制度が制定された。指定数は2009年の時点で59病院[6]。各都道府県に24時間電話を受け付ける精神科救急医療情報センターを配置し、各精神科病院に紹介する仕組みがある。
入院施設のある病院の場合、開放病棟と閉鎖病棟の2種類がある。可能な限り開放処遇とするが、症状が重く自殺等の自傷行為や他者を傷つける行為(自傷他害という)の危険が切迫している場合などで精神保健指定医の診察の結果、閉鎖処遇が必要と判断した場合、患者の保護および治療のため、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(精神保健福祉法)に従った手続きを行い閉鎖処遇をとることがある。なお閉鎖病棟では、入院患者のプライバシーや人権は軽視される場合もある。
入院施設は急性期治療病棟と療養型病床群に分けられる。急性期治療病棟は、精神疾患において急性期と慢性期では求められる医療の質・量が全く異なることから、急性期において重点的なチーム治療を行い早期の退院、社会復帰を行うことを可能にするため、1998年4月の診療報酬改定の際に創設された制度である。療養型病床群に比べて看護スタッフの割合を多くとること、入院期間が平均3ヵ月以内であることなどが義務付けられ、そのかわり診療報酬が高く設定されているシステムである。
入院中は、精神科医、看護師、公認心理師、理学療法士、作業療法士、音楽療法士、保健師、薬剤師、精神保健福祉士、社会福祉士、栄養士、管理栄養士などによるチーム医療が行われ、カンファレンスを行いスタッフ間での意見の交換が頻回に行われるべきである。また薬物療法や身体拘束にあたって根拠に基づく医療が行われることが望まれている。
旧・総合病院も含む、精神保健福祉法に基づく精神科病床への入院には、大きく任意入院と非自発入院がある。このうち任意入院は自らの意志に基づいた入院で、可能な限り任意入院を行うべきであると同法第22条の3に定められている。
非自発入院の判断基準(日本精神科救急学会ガイドライン)[7]
しかし、精神疾患に罹患した患者の場合、自らが病気に罹患していることや治療が必要であることを理解しない場合も多い。その際、精神保健指定医が診察した上で、医療及び保護が必要であると認めた場合は、保護者の同意を得て医療保護入院(本人の意志によらない入院)を行うことができる。
措置入院は、自傷他害(自らや他者を傷つけること)のおそれがある場合[7]、主に警察官から保健所への通報により保健所が手配した精神保健指定医2名の鑑定を経て行われる。入院形態には他に応急入院、緊急措置入院がある。なお、「患者の移送に黄色い救急車(もしくは緑の救急車)が使われる」という話は嘘(都市伝説)である。
なお、触法精神障害者向けには、医療観察法に定められている鑑定入院、指定入院医療機関での入院がある。
また一部病院では一般疾患病棟での入院治療を行っているが、医療法第十条第三項の規定に反するという見解もある。こうした入院治療は精神保健福祉法に基づくものではないため当然強制力は発生しない。
児童青年を対象としたセクションが存在する。英国NHSではChild and Adolescent Mental Health Services(CAMHS)が担っている。
施設の一つに地域型ハーフウェイ・ハウス(英語版)(中間施設)がある。これらの施設では患者時に対し一定期間の日常生活支援が提供される[8]。
ソ連の反体制者が政治目的で特殊精神病院に送られていることが、1971年の世界精神医学会(World Psychiatric Association)第五回世界大会において正式に告発される[9]。その思想が向精神薬や精神療法によって矯正されるまで閉じ込めていた [10]。また中華人民共和国ではいまだに旧ソ連同様に政治目的で精神病院を利用しており、例えば新宗教である法輪功のメンバーが強制入院させられている[10]。
触法精神障害者向けとしては心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律(医療観察法)に基づき、鑑定入院医療機関、指定入院医療機関、指定通院医療機関がある。
フィンランドは西ラップランド地方で、1980年代に始まったものにオープン・ダイアローグ療法がある。統合失調症の初期に、24時間以内に訪問、できるだけ薬物を使わず、患者の妄想にも対等の目線で介入、対話の中で症状の緩和を目指し、モノローグをダイアローグへと開いてゆくことなどを試みる。2年後の調査で症状再発がないあるいは軽いものにとどまった患者は82%(通常は50%)、再発率24%(同71%)と高い成果がある。日本をはじめとする世界中で、(日本では保険対象外)注目を集めており、日本ではオープン・ダイアローグ・ネットワーク・ジャパン(ODNJP)という団体が、石原孝二、斎藤環、高木俊介を中心に発足している。
近年薬だけに頼らない精神医療を推進し、自殺予防に大きな効果をあげた。重症度に応じたケアの仕組みを導入し、中心に認知行動療法を据えた(心理療法アクセス改善)。薬物療法は症状が重い場合のみ認知行動療法と併用し用いている。英国国立医療技術評価機構で医療機関向けのガイドラインを作り、単剤少量での治療を順守させた。そのほか地域ケアの充実も図った。こうした取り組みにより、ブレア政権下の97 - 07年の10年間で、人口10万人あたりの自殺者数は9.2人から7.8人と15.2%減少した[11]。
1970年代よりセクトゥール制といわれる地域医療が発達している。この制度はフランス特有の公的精神医療・福祉サービス体制であり、公立病院(81%)への入院、外来、地域医療、福祉のすべて一貫して県の組織で行われ、私立以外はすべて無料である。入院内・外の継続治療、病気の予防や発症の早期発見などが一つの機関で行え、CMP(医学心理センター)、Hopital de jour(昼間病院、デイケア)、Apartment thérapeutique(治療アパート)、CATTP(時間限定治療センター)など備わっているのが特徴。このセクトゥール制に属する病院はフランス全土に950存在し、公的精神病床数は61500床あり、約6600人の精神科医が配置されている[12]。
1978年、通称「バザリア法」が成立[13]。世界初の精神病院廃絶法である。予防・医療・リハビリは原則として地域精神保健サービス機関で行う。やむを得ない場合に対処するために一般総合病院にも15床を限度に設置するが、そのベッドも地域精神保健サービス機関の管理下に置く。治療は患者の自由意志のもとで行われるが、やむを得ない場合には定まった条件を満たした場合のみ強制治療はある[14]。これによりイタリア各地における精神医療サービスは、それまでの入院中心様式から地域・外来治療中心へと展開した[15]。
現在のイタリアの精神医療は、精神病院の閉鎖と、その後の地域中心型精神医療サービスへの移行に成功している好例である。
日本では、2006年の調査で精神科を利用している患者は約320万人おり、その数は年々増加する傾向にある[17]。国立精神・神経医療研究センター長の松本俊彦は「今の診療報酬体系では精神科医が1人の患者に時間をかけて話を聞きにくい。短い診察時間だと患者は医師を信頼せず、薬をもらうだけの関係になりやすい為、過量服薬につながる可能性が高まる。じっくり患者の話に耳を傾けることで患者とのつながりを作れる体制を整える必要がある」と語る[18]。診療所や病院の外来における診療時間は概ね10分から15分程度である。 また高齢化に伴いアルツハイマー病などの認知症の患者も増えており、外来・入院あわせての患者数は約38万人で、1996年から2008年の12年間での認知症患者数は3.5倍増加している。しかし介護領域からの推計によると、200万人以上もの認知症患者が存在すると見られ、2030年には350万人に増えると予想される。今後精神科をはじめとした医療機関の負担もさらに増すと見られている[17][19]。
全精神病床数 | 入院患者数 | 措置患者数 | 措置率 | 病床利用率 | |
---|---|---|---|---|---|
2000年 | 358,597 | 333,328 | 3,247 | 1.00% | 93.0% |
2005年 | 354,313 | 324,851 | 2,276 | 0.70% | 91.5% |
2007年 | 351,762 | 317,139 | 1,849 | 0.60% | 89.5% |
2008年 | 350,353 | 314,251 | 1,803 | 0.57% | 89.1% |
2009年 | 348,129 | 321,681 | 1,741 | 0.56% | 89.8% |
2010年 | 347,281 | 311,007 | 1,695 | 0.55% | 89.6% |
2011年 | 345,024 | 306,064 | ... | ... | 89.1% |
日本の精神医療の問題点としては入院患者が減少しない、世界でも稀に見る程多くの精神科入院ベッド数(約35万床)、平均在院日数が300日以上と極めて長いこと(社会的入院をしている患者が約25万人)があり、中には精神科病院で30年間以上にも渡って長期入院生活を続けている患者も居る事が挙げられる[22]。
入院患者が減らない原因として、退院しても偏見が存在しているので、社会に戻す環境整備がなかなか行われない、精神科病院の9割を占める民間病院が、簡単に病床を減らせない(入院患者の減少は、病院経営の死活問題になる)事情がある[23]。
先進国と比べても、日本の精神科の病床数は人口に対して世界で最も多く、入院期間も最も長い。先進諸外国が国公立の精神科病院を減らし、患者が地域で安心して暮らせるような制度を推進しているのに対し、日本の精神科医療はまだ入院という方法に頼っている。このような日本の現状に対して、1968年には世界保健機構(WHO)から、1985年には国際連合から、法制度を改善するように勧告を受けた。しかし未だ多くの精神科病院の体系は変わらず、多くの患者が入院生活を送っている[24]。
現在は地域移行特別対策事業が厚生労働省によって開始され、2012年までの数値目標が掲げられている。地域移行支援アシスタント(退院促進支援員より名称変更)による地域でのネットワーク作り、地域移行推進員などの活躍が期待されている。しかし開始間もないことや、名称変更と業務追加がされた後も目立って人員増加されていないこともあって、目覚しい効果は上がっていない。
2006年4月、障害者自立支援法が施行。患者の世帯収入に応じた応益負担による自立支援医療が実施される。通院治療において、この制度を使うと、医療保険を使用した時、医療費全体の原則10%負担となる。なお、患者の世帯収入が少ない場合は負担額の上限が設けられ、月額上限2,500円から20,000円の間となる。また、市区町村によっては、この負担額の上限とは別に独自に補助を行っている地方公共団体もある。この制度を利用する場合、病院の医師やケースワーカーに相談し主治医に診断書を作成してもらい、住民票のある市区町村に診断書と申請書類を提出することが必要である。
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